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中村草田男を読む221〜230(『母郷行』6〜15)
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句集『母郷行』 |
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澄むことに一生を懸けし人の泉
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1953年
52歳 |
鑑賞日
2006/7/15 |
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〈一生〉は[ひとよ]とルビ 西行の歌に「とくとくと落つる岩間の苔清水くみほすほどもなきすまひかな」とある有名な泉である。西行を想い芭蕉も「露とくとく試みに浮世すすがばや」と詠んでいる泉でもある。この草田男句は芭蕉が一時住んだ幻住庵を訪ねた時の句である。幻住庵の傍にとくとくの泉はある。この「済むことに一生を懸けし人」というのは西行のことであるし、また芭蕉のことであるかもしれない。彼らに想いを馳せている句である。 |
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句集『母郷行』 |
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前後なきかなしみ炎天の太鼓の音
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1953年
52歳 |
鑑賞日
2006/7/16 |
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この句は〈母の遺骨を郷里松山へ携へゆきて、父の墓へ合葬す〉とある『母郷行』の中の句であるから、言っている状況は明確である。内容に「炎天の太鼓の音」がよく響いてよく感受できる。誰にもこのような経験はあると思う。しかし、草田男の母への思いの強さは格別であるような気がする。 |
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句集『母郷行』 |
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泳ぎ女一人 溪に佇ちこの國潔し
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1953年
52歳 |
鑑賞日
2006/7/17 |
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〈女〉は[め]、〈溪〉は[たに]、〈潔〉は[きよ]とルビ この頃、ごちゃごちゃと鑑賞文を書くのが面倒になってきている。何も書かないで句を鑑賞しているのが一番いい。しかし何も書かない訳にもいかないから書く。 |
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句集『母郷行』 |
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道をしへ「日の道」海に盡くる頃
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1953年
52歳 |
鑑賞日
2006/7/18 |
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一つの童話的・宗教的な風景が見える。 |
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句集『母郷行』 |
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枝葉に通ふ香の無花果を食べて自愛
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1953年
52歳 |
鑑賞日
2006/7/20 |
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無花果というものから受ける感じがよく出ていると思う。「枝葉に通ふ香」「無花果」「自愛」という事柄が非常によく融けあっている。自愛とはこういうものなんだなあという実感である。 |
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句集『母郷行』 |
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仔豚暖か白鷺の脚水に歿し
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1954年
53歳 |
鑑賞日
2006/7/24 |
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対照的な二つのもの(仔豚と白鷺)と対照的な二つの状態(暖と冷)を描くことによって、自然の豊かさや自然への愛着が表現されている。 |
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句集『母郷行』 |
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母の命下に春灯點ぜし頃戀し
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1954年
53歳 |
鑑賞日
2006/7/25 |
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「命下」は何と読んだらいいだろうか。[めいか]か[みょうか]か、いずれにしてもこの言葉が句を作っている。母への厚い心情が感じられる句である。しかし気になることもある。草田男の句がこの頃あまり冴えないように感じるのは、母というものに象徴される精神的な支えを失ってしまった故だろうかということである。この先の句はざっと一読しただけであるが、あまり冴えないという印象がある。草田男の青春性のある感覚は素晴らしいものがあったが、後になるとその精神の弱さが感じられてならないのは私だけだろうか。もっともっと存在そのものに‘母なるもの’の永遠性を求めて欲しかったという思いもある。 |
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句集『母郷行』 |
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蝙蝠飛ぶよ己が殘影さがしつつ
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1954年
53歳 |
鑑賞日
2006/7/26 |
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草田男のこの頃の自画像のような気がする。己の残影を探しつつ在るような状態。過去の己の残影を探してもしょうがないのではあるが、あらゆる分野で人が陥りやすい状態ではある。 |
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句集『母郷行』 |
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葭切の上下に搖れる晝の月
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1954年
53歳 |
鑑賞日
2006/7/27 |
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風景をすぱっと切り取って書いて気持ちいい。内面のもやもやが無ければ草田男はこのように書ける。いや誰でもそうなのかもしれない。内面のもやもやをどう処理するかが問題である。あえてそれを書けば草田男の後半の句になるし、そんなものは相手にしないと高を括れば虚子の後半のような薄っぺらなものになる。そんな気がする。 |
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句集『母郷行』 |
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ひとを訪はずば自己なき男月見草
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1954年
53歳 |
鑑賞日
2006/7/28 |
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「ひとを訪はずば自己なき」というところは草田男の自嘲でもあるし、一般的に人間の状況でもあると思う。草田男に関しては、この落ち着きの無さを後期の句に感じる。そして表現においては季語に強依存している感じがある。季語を使えば句が成立するというものでもない。しかしこの句の「月見草」はある程度は成功しているとは思う。 |
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