| 表紙へ | 前のページ | 次のページ |
中村草田男を読む51〜60(『長子』51〜60)
|
句集『長子』 |
||
|
温泉の宿のうらに芒の一軒家
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/12 |
|
やはり旅情である。誰でもが感じたことがあるであるような些細な感じというものを、よく拾い上げて書くなあと感心するのである。 |
||
|
句集『長子』 |
||||
|
月に飛び月の色なり草かげろふ
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/13 |
||
|
瞬間的な色彩の美しさと、小さな“生きもの感”というようなもの。
|
||||
|
句集『長子』 |
||
|
鵙の目の對へる畑の一ト火燃ゆ
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/14 |
|
一枚の緊張感のある絵画のようだ。鵙とその目、畑の一ヶ所に燃える火、その配合があまりに決まっているので、実際にこのような景色を見たとは思えないのであるが、その景色が眼前に存在するように思えるのは何らかのリアリティーが作者の中にあるからである。 |
||
|
句集『長子』 |
||
|
秋草の多きにつれて人戀し
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/15 |
|
「つれて」が上手いと思う。この言葉で秋の野道を歩いてゆく状況が描き出されている。自然と抒情。 |
||
|
句集『長子』 |
||
|
冬の水一枝の影も欺かず
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/16 |
|
この辺りにはそれなりに写生句としては良いものが並んでいて、取り上げようかどうかと迷ったが、大分抜かしてきた。こんな場面もあるなあ、こんな事もあるなあと納得するのであるが、スナップ写真の上等のようなもので取り上げられなかったのである。 |
||
|
句集『長子』 |
||
|
冬空をいま青く塗る畫家羨し
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/17 |
|
〈羨)は[とも]とルビ 草田男はまた〈憧れ〉の作家でもあるし、〈青春性〉の作家でもある。この句に於てもこれらの性質である、胸が憧れに疼くような感じがよく出ている。 |
||
|
句集『長子』 |
||
|
霜踏んで行くや悪夢は昨夜の事
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/18 |
|
〈昨夜〉は[きぞ]とルビ 悪夢を見た朝の感じがよく出ている。夢からだんだんと現実へ意識が戻っていく過程を霜を踏んで歩いてゆくということに重ね合わせて、その時間を上手く表現している。 |
||
|
句集『長子』 |
||
|
書を讀むや冷たき鍵を文鎭に
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/19 |
|
〈図書室留守番〉と前書 冬の図書室のピンを張りつめた空気だとか、作者の書物に対する姿勢が伝わってくる。良く言えば真摯なる姿勢、悪く言えば固すぎる姿勢である。 |
||
|
句集『長子』 |
||
|
寒月下灯の濁りたる電車行く
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/20 |
|
「灯の濁りたる」という表現に納得させられる。感覚が冴えいるというか、言葉の選び方が上手いというか、句作の集中力があるというか、そんなところであろう。 |
||
|
句集『長子』 |
||
|
降る雪や明治は遠くなりにけり
|
『長子』刊行年
昭和10年(1936) 草田男35歳 |
鑑賞日
2005年 12/21 |
|
たいへん厚みを感じさせてくれる句である。何の厚みか。雪の降っている空間の厚み、そして時間の厚みである。この句の魅力は空間の厚みがそのまま時間の厚みと重なってくる感覚である。 |
||
| 表紙へ | 前のページ | 次のページ |