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中村草田男を読む71〜80(『火の鳥』11〜20)
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句集『火の鳥』 |
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人影なき城の冩眞や夜の蠅
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1937年
36歳 |
鑑賞日
2006/1/1 |
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一人でいる夜の厚い時間を感じる。自分の思いの言葉を入れないで雰囲気を出している。このような句作りが私の目標でもある。 |
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句集『火の鳥』 |
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父となりしか蜥蜴とともに立ち止まる
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1937年
36歳 |
鑑賞日
2006/1/2 |
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ちょこちょこっと歩いては止まりちょこちょこっと歩いては止まる蜥蜴の動作は人間の心の歩みに似ていなくもない。特に創作に携わるような性格の人はそうであろう。昭和10年に第一句集『長子』を出版して、また二年後のこの年に長女が生れている。順風満帆であるのであるが、そんな時にこそ「これでいいのだろうか」と立ち止まることはよくあることである。 |
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句集『火の鳥』 |
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燭の灯を煙草火としつチエホフ忌
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1937年
36歳 |
鑑賞日
2006/1/3 |
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チェホフを殆ど知らない私であるが、この句においてはチェホフ以外では成り立たないようなものがある。燭の灯を煙草火とするという行為とロシアの風土との響きあいがあるし、ドストエフスキーやトルストイでは似合わないものがある。チェホフについて知らないのでこれ以上のことは言えないが、逆にこの句によりチェホフという人物を思い描くことは出来る。そしてまた、草田男がチェホフのことを燭の灯や煙草火のように心の中の灯と見ていたことも解る。 |
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句集『火の鳥』 |
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會へば兄弟ひぐらしの聲林立す
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1937年
36歳 |
鑑賞日
2006/1/4 |
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〈兄弟〉は[はらから]とルビ ひぐらしの声が林立する、とういう表現がまことに人を納得させる。「林立す」という意味の上でもそのようだし、rinritsusuという音からくる凛々とした感じも的を得ている。また「會へば兄弟」というのも、なるほどそうだという共感がある。普段は兄弟である感じを忘れているのであるが、会ってみるとその感じが蘇ってくるのである。そして更に「會へば兄弟」と「ひぐらしの聲林立す」という二つの事柄の配合がとても美しく響きあっている。したがってこの句は二重三重の意味でとても上手い句である。 |
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句集『火の鳥』 |
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こゝは地の罅と蜥蜴の多きところ
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1937年
36歳 |
鑑賞日
2006/1/5 |
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〈罅〉は[ひび]と読むー私註ー このような土地もある、ということを眼前に見せてくれている。多分、このような心理状態もあるということも仄かにする。 |
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句集『火の鳥』 |
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冬の友オリオンはやも柘榴の上
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1937年
36歳 |
鑑賞日
2006/1/6 |
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オリオンを「柘榴の上」と言ったことで、親近感もあるし、またその大きな星たちの粒々感もある。全体に天体を友達のように見ている作者の在り方が感じられる。 |
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句集『火の鳥』 |
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軍國の冬狂院は唱に充つ
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1938年
37歳 |
鑑賞日
2006/1/7 |
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〈唱〉は[うた]とルビ 戦争は人間の狂気の表れである。戦争に狂気を発散して正気を保つ、という言い方もできるかも知れない。狂気を何らかの形で発散でき得なかった人達が狂人である。だから、彼等の方が狂気を正当化して戦争に発散する人間達よりはむしろ無害であるとも言える。だから「軍国の冬狂院は唱に充つ」というのは人間に対する皮肉でもあり、真実でもある。詩人草田男はその辺りを直感したのかも知れない。 狂気は発散されるべきではなく昇華されるべきものである。 |
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句集『火の鳥』 |
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われ等貧し狂院の砂利鶺鴒行く
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1938年
37歳 |
鑑賞日
2006/1/8 |
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狂院という現実。軍国という現実。狂うということの現実。我々はみんな貧しいのである。それに対して狂院の砂利の上を行く鶺鴒のみが美しく豊かである。 |
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句集『火の鳥』 |
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雪女郎おそろし父の戀恐ろし
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1938年
37歳 |
鑑賞日
2006/1/9 |
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草田男の父は昭和元年に死んでいるから、昔のことを思い出しての句であろうか。家族を大切にする(それは愛というよりも執着に近い要素さえあると私は見ている)草田男にとっては父の恋というのは恐ろしいものだったに違いない。 |
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句集『火の鳥』 |
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池の中冬木の影は底知れず
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1938年
37歳 |
鑑賞日
2006/1/10 |
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「冬の水一枝の影も欺かず」という有名な句があるが、私はこの掲出句のほうがいい。「冬の水・・」の逃げ場のないような緊張感が嫌なのであり、掲出句の包容力のある姿のほうが自然の真実に近いのではないかと思う。 |
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